人と環境にやさしい 気化性防錆剤とは

油を使用しないため環境にやさしい防錆剤「気化性防錆剤」とは何か。

そのメカニズムや歴史、活躍のフィールドなどについて、詳しく紹介します。

気化性防錆剤とはなに?

あらゆる金属は放っておくと錆びてしまいます。 特に高温多湿で島国の日本では、金属類は常に発錆・腐食の危険にさらされています。 錆を防ぐ方法は左図の3種類に大別され、その中で金属製品の加工過程や加工部品の保管、輸送過程で錆を防ぐのが「気化性防錆剤」です。

気化性防錆剤の歴史

紀元前1500年頃が起源とされるめっきに比べ、気化性防錆剤の歴史は新しく、1940年代の第二次世界大戦中に開発されました。 米軍が第二次世界大戦の南太平洋戦線において兵器や軍需品を極東へ海上輸送する際、高温多湿な現地における保管で、かつて経験したことのない発錆に悩まされ、防錆包装を開発したのが始まりです。

気化性防錆剤は、英語名の頭文字をとってVCI(Volatile Corrosion Inhibitor)と呼ばれることが多く、わが国でも一般に通用されています。 日本で気化性防錆剤が使用されるようになったのは朝鮮戦争が勃発した1951年頃に米国から鉄鋼用VCI「DICHAN(ダイカン)」が輸入されてからで、一般産業用として使用されたのは1954年頃からだと言われています。

気化性防錆剤のメカニズム

気化性防錆剤とは、固体・液体の区別なく、防錆剤成分自体が家庭で防虫剤として使用しているナフタリンや樟脳のように常温でゆるやかに気化する化合物または混合物です。 気化した気体は、密閉した空間内で金属表面に吸着され、目に見えない防錆被膜を形成します。

気化性防錆剤の仕組み

  1. VCI(気化性防錆剤)が密閉空間の中で気化し浮遊
  2. 気化したVCI分子が金属表面に吸着し、防錆被膜を形成
  3. 気化性であるため、塗布されにくい複雑な形状の製品に対しても気化成金属分が浸透し、保護作用が働く

一般の防錆油とは異なり、直接塗布する必要がないため使いやすく、荷を解いた後の脱脂作業の必要も、脱脂後の油による環境負荷の心配もありません。 気化性防錆剤は、環境面、適用の容易性などから幅広い産業分野に採用されています。

気化性防錆剤 VERZONE®(ベルゾン)シリーズ

持続可能な社会を実現するために、防錆にも環境にやさしい製品が求められています。 気化性防錆剤「VERZONE®シリーズ」は、油を使わずにクリーンな防錆を実現する、人にも環境にもやさしい防錆剤です。 独創的な特性、優れた防錆力、適用の容易性などから幅広い産業分野に採用され、海外からも高く評価されている「VERZONE®シリーズ」を紹介します。

「VERZONE®」とは

ベルゾンとは、大和化成が開発し製造する防錆剤のオリジナルブランドです。

蒸気・蒸発という気化を表す英語「ベーパー」に「ゾーン(区域)」を組み合わせ、ドイツ語のようなイメージにするために「ベルゾン」とした造語です。 「ある空間の蒸気圧を持つ薬剤」という意味をもたせました。 油を使わずに密閉した空間の中で、気化する薬剤で金属を錆びから守る、それが「VERZONE®」。 環境にも人にもやさしい防錆剤です。

「VERZONE®シリーズ」開発の歩み

大和化成が創立したのは1963年で、日本の高度成長期の真っ只中でした。 「やがて鉄の時代が来る」「自動車や航空機の部品が赤道を越えて海外に行くだろう」と、当社代表の奥濱は将来を見越し、防錆剤に着目。 「米軍が銃の錆を防ぐのに気化性防錆剤を使用している」ことを耳にし、これを自社で作れないかと考えたのです。

「金属を錆から守る」。 大和化成の歴史はここからスタートしました。 当時は防錆といえば機械油を塗っていた時代で、油を使わず、気化したガスで錆を防ぐ気化性防錆剤は既に日本でも製造され、使用されていましたが非常に高価でした。 これを自社製造することで、民間企業でも使えるような価格で提供することを目指したのです。 大和化成は、創立以来60年弱、防錆剤の研究に取り組み、防錆性能に優れ、環境に負荷を与えず、ものづくりの現場を改善する様々な製品を開発してきました。

  • 1951

    米国より気化性防錆剤「ダイカン」が輸入される。

  • 1954

    気化性防錆剤が一般用産業に本格的に使用されるようになる。気化性防錆紙が製造される。

  • 1963

    気化性防錆油が米国から輸入される。

  • 1964

    気化性防錆油の国産品の開発に成功。

  • 大和化成は気化性防錆剤の自社製造を決意。

  • 1965

    気化性防錆剤の製造法を研究、気化性防錆剤の製造に着手。

  • 1967

    気化性防錆剤を製造するために「株式会社大和化成研究所」を設立。工場及び研究所を建設し気化性防錆剤「ダイカン・ダイパン」の製造を開始。

  • 1970

    平野工場を新設。気化性防錆剤を本格的に製造。気化性防錆剤の自社ブランド「VERZONE®」を立ち上げ。

  • 1975

    気化性防錆紙「プレラップ含浸液」を開発。

  • 1982

    亜鉛及び亜鉛合金の防錆剤の特許取得。

  • 1984

    銅及び銅系合金の腐食抑制方法の特許取得。

  • 2009

    亜硝酸フリー気化性防錆剤を開発。

  • 2019

    特殊配合気化性防錆剤をコーティングしたA-PETシートを開発、この樹脂シートを真空成型した防錆トレイを製造。

  • 2020

    クロムフリーの水溶性処理剤のための耐熱性銅変色防止剤VERZONE HC-3を開発。

「VERZONE®シリーズ」の特長

  • 環境に負荷を与えない

    油を塗らずに金属の錆を防ぐ画期的な防錆剤です。 油を拭き取る脱脂作業の必要がなく、脱脂後の油による環境への負荷の心配もありません。 さらに油を使用しないため、クリーンな作業環境が保てる人にもやさしい防錆剤です。

  • ムラなく防錆効果を発揮

    気化性防錆剤はナフタリンや樟脳のように常温で緩やかに気化し、その気体が金属表面に吸着され、防錆被膜を形成するため、複雑な形状部分にも保護作用が働きます。

  • 適用が容易

    一般のグリースや防錆油とは異なり、金属表面に直接塗布する必要がないため、適用が簡単であり、包装を解けば直ちに製品は使用できます。

  • 短期~長期の防錆に対応

    金属製品の加工過程や加工部品の保存、輸送過程での一時的な防錆だけではなく、包装方法によって10数年以上、密閉雰囲気中では半永久的に防錆効果を持続します。 また、気温変化による効果の劣化の心配もありません。

  • トータルコストを低減

    油を用いずに防錆保護ができるため、これまでの防錆作業の「塗布」「油ふき取り」など、多大な労力とコストを伴う煩雑な作業工程を必要としません。 このため、防錆に必要なコストを大幅に削減します。

安全でクリーンな環境を提供する 亜硝酸フリーの気化性防錆剤「VERZONE®グリーン」

代表的な気化性防錆剤であるDICHANの腐食抑制剤は亜硝酸塩です。 この亜硝酸塩は、毒物及び劇物取締法の対象物質でアミンと結合し、発ガン性物質であるニトロソアミンを生成する恐れがあるとされていました。 2009年、大和化成研究所は完全亜硝酸フリーの気化性防錆剤「VERZONEグリーンSH-K」を開発しました。 亜硝酸塩を一切使用せず、毒劇法、消防法、安衛法、PRTR法に指定されている化学物質を含有していません。 鉄・非鉄にかかわらず様々な金属に対して、優れた防錆効果を発揮する画期的な気化性防錆で、環境に優しく安全でクリーンな作業環境を実現します。

幅広い分野で活躍する気化性防錆剤「VERZONE®シリーズ」

多種多様な形体

防錆剤の種類は、鉄鋼用と非鉄用に分かれ、粉体か液体、水溶性または油溶性。 さらに形体も粉末、タブレット(錠剤)、防錆油、水溶性防錆剤、防錆紙、デバイス、エミッター、テープ、フィルムなどがあります。

防錆性能として即効性、マイルドで持続性の高いものなどもあり、金属の種類、対象となる金属製品に応じて最適の防錆剤を選ぶことが重要です。 さらに世界中の様々な腐食環境に応じた防錆対策も求められます。

大和化成では防錆管理士が、お客様の一つひとつの防錆ニーズに対応する、最適の防錆処理方法を提案しています。

  • 小袋詰気化性防錆剤

  • 防錆トレイ

  • 気化性防錆紙

活躍のフィールド

  • 海上輸送

    海上輸送時の結露などによる発錆の損失は数兆円とも言われています。 「VERZONE®」は、形状が複雑な各種部品のノックダウン輸出梱包を始め、自動車用薄板鋼板、大型機械や精密機器類などの海上輸送に真価を発揮。 現在130カ国以上の海外輸出実績を持ち、国内外から高く評価されています。

  • プラント設備

    複雑な構造物のタンク類や冷却塔、配管、熱交換器などの空間内に「VERZONE®」を充満させることにより、直接金属に作用するため、容易に防錆対策が行えます。 また大型設備の運転停止中の防錆対策にも活用されています。

  • 自動車のエンジン

    塗装ができないエンジンの内部部品の防錆などに使用されています。

  • 水圧試験など

    プラント機器の気密性や水密性を確認するために水を張り耐圧検査を行います。 この時、水を錆びない水に変える効果のある防錆剤が水圧試験に使用されます。 水抜き後も防錆効果が期待でき、処理水は環境に悪影響を与えません。

    LNG、LPGタンカーや密閉循環式冷却水系の貯蔵タンク、発電用ボイラーで動く船舶や機械、さらに原子力発電所・火力発電所の一部でも使用されています。

  • エレクトロ二クス分野

    「VERZONE®」は防錆力だけでなく除去性に優れています。 特にプリント基板を始めとするエレクトロニクス機器のめっきに威力を発揮。 めっき層の厚さが限界を超えたり、凹部や隠蔽部、つき廻りの悪い箇所に起きる腐食を防ぎます。 また、銅系合金が下地になっている金・銀・スズめっき品の変色防止効果も得られます。